探し出すのは人か？心か？行方不明者捜索録『会社役員を探せ！』

行方不明者とは、社会のある一定の層の人間が起こすものではありません。

子供も、大人も、フリーターも、社長も、ヤクザも、警察も、ありとあらゆる層の人間が何の前触れも無く、ある日忽然と姿を消すのです。

『会社役員を見つけ出せ』

その会社役員を探しだすように依頼してきたのは、失踪者の妻と、会社の重役たちでした。

失踪した役員の年齢は49歳。有名大学出身で、出世街道を歩んできた典型的な仕事人間で、家庭もあり、まさに順風満帆の生活でした。

ところが、家族に『仕事にいってくる』といって出て行ったまま戻らず、会社から電話が入り失踪の事実が発覚しました。

調べてみると、失踪者は事前に下ろした現金十数万円と着替えとバッグ、クレジットカードを持って出かけており、自身の車は自宅付近の駅に駐車された状態で発見されました。

つまり、これは明らかに計画的な失踪。
しかし、依頼者や同僚によれば、最近依頼者は腰痛のため病院に通っていたものの、失踪の原因となるような出来事は何もなかったそうです。

捜索開始

成人失踪者の場合、明らかな事件性が無い限りはあてにはできません。

しかし、失踪の状況からして自殺の計画がある可能性が高かったため、まずは行き先となりえる場所を予測し、その周辺の宿泊施設にローラーをかける捜索プランを経てました。

ちなみに、自殺者が死に場所を求めて旅をするという事は良くある事で、特に今回のような計画性の高い失踪の場合は、自殺地を決めるための観光プランまで失踪者が組んでいる可能性があるのです。

そこで、まずは失踪者の自宅室内を確認させてもらい、行き先の手掛かりとなるものがないかを探したのですが、これが大当たり。

インターネットの履歴は消されていたものの、リカバリーファイルまでは削除していなかったため、失踪者が調べた観光地のリストを作る事ができました。

そのリストの中から、まずは自宅より北側のものをピックアップし、自宅から程良く遠く、失踪者が一度も行った事のなさそうな場所にポイントを絞りました。

なぜ北なのかというと、破滅への旅をする失踪者の殆どが北へ北へと向かう習性があるため。
その読みは見事的中し、宮城県のある観光地周辺のホテルの従業員が、失踪者と似た顔の人物を見たという連絡が入りました。

調査員が急いで現場に向かうと、丁度失踪者がホテルからチェックアウトする寸前。急いでその場で声をかけ、家族と会社の同僚が到着するまでホテルのロビーで話をする事になりました。

本当の幸せは・・

ホテルのロビーで、うなだれる失踪者に、「死ぬつもりだったのですか？」と質問すると、失踪者は黙ってうなずきました。

その後、ぽつりぽつりと身の上を話し始めた彼によれば、実は失踪者が腰痛で病院に通っていたのは嘘であり、本当は精神科に通っていたこと。その医者の診断によれば、仕事と家庭のストレスで、完全なうつ病状態にあることを告げられ、精神向薬と睡眠薬を処方されていたそうでした。

さらにその後、家族や会社に黙って精神科に通い続けたものの、症状はどんどんと悪くなっていき、いつしか寝ても覚めても自殺の計画ばかり考えるようになったそうです。

やがて、心配そうな顔をした家族と同僚が到着すると、失踪者は再び黙り、私は彼らの話し合いの場を作るため、ホテルのロビーの端へと移動して、依頼者の動向を見守りました。

まとめ

その後、失踪者は無事会社に戻りましたが、精神病のこともあるため自ら左遷を望み、人が少なく、自由な環境がある支社へと移動しました。

また、依頼者である奥さんの話によれば、その後は失踪者と一緒に精神科に行くなどして夫のケアに努めているといいます。

失踪者の殆どは、このようにその理由をひた隠しにする事が上手な人も居るのですが、そうやってストレスをため込んでしまう事は、実は一番失踪率を上げてしまう原因でもあるのです。

もしも周囲に何か悩んでいそうな人がいたら、とりあえずでも良いので話を聞いてあげてください。悩みを解決してあげる必要はありません。ただ、話を聞いてあげるだけでも、彼らが失踪という手段を取らずに、助けを求められるのですから。