認知症による行方不明の実態

認知症患者が行方不明になる事案が深刻化しています。
認知症やその疑いがあり、「はいかい」などで行方不明になったとして警察に届けられた人が、おととし１年間に全国で延べ１万人。

このうち死亡が確認されたり、行方不明のままだったりする人が、合わせて５５０人を超えることが、全国の警察本部への取材で分かりました。
川に転落したり交通事故にあったりして死亡が確認された人は、３５１人に上りました。

認知症と徘徊

徘徊はアルツハイマー病の認知症の多くみられる症状です。

この徘徊はただ周辺を歩き回るだけと思われがちですが、転んで怪我をしたり、事故にあったりするのほか、田舎では人目につかない場所に行ってしまう事もあり、餓死や凍死などが起きた事例もあります。

認知症とは　―『高齢者の４人に１人が認知症』

認知症とは「知能が後天的に低下する」症状を指す言葉です。
特に65歳以上の高齢者に多くみられ、その数はなんと４人に１人が認知症とその予備軍であると言われる程です。

この症状は、老化にともない急速に脳細胞が消失して、記憶の一部ではなく全てがなくなってしまうなど、かなり危険な症状であるといえます。

原因としては「アルツハイマー病」や、脳の血管が詰まって周りの細胞を圧迫する「脳血管障害」によるものが多いとされています。

認知症患者はなぜ徘徊するのか？　―『むやみに徘徊している訳ではない』

認知症患者の徘徊は、見当識障害(失見当識)によるものであるという見解が一般的です。

これは『行動の目的を失ってしまう』というもので、何かをしようと思って歩き始めるのですが、すぐにそれを忘れてしうほか、今自分がどこに居るのかすら忘れてしまうのです。

つまり、目的があるのに辿りつけない迷子とは違い、なぜ外に出たのかすら忘れてしまう記憶の障害なのです。

さらに認知症が悪化すると様々な判断力(危険を回避する・安全を確保する)が失われるため、人に道を聞く事もできず、保護されるまで延々とあちこちを歩き回る事になります。

増え続ける認知症による事故

今、認知症の行方不明者が出会う事故の中で最悪なのが、列車にはねられるなどの鉄道事故を起こしてしまう事です。

2012年度までの8年間の統計では、最低でも149件の事故が発生しており、これにより115人の認知症患者の方が亡くなっています。

また、ダイヤの乱れを引き起こしたとして損害賠償を求められた事例もあります。
これは2007年12月、愛知県に住む当時91歳の認知症の男性が、JR東海道線の共和駅で線路内に入り、快速列車にはねられて死亡したというもの。

事故後、ＪＲ東海は認知症の男性の息子家族に対して、振り替え輸送などにかかった費用約７２０万円を請求しました。

その後と、名古屋地裁は「家族が見守りを怠った」というJR東海の主張を認め、約720万円の賠償を遺族に命じたのです。

判決の理由としては、同居の妻が介護ヘルパーを依頼しなかった事や、目を離したすきに男性が外出したこと、また、別居の長男が事実上の監督者であるにもかかわらず、徘徊防止の適切な措置を取らなかった事が上げられています。

しかし、認知症の介護は多額の費用や時間や人員を必要とするため、認知症患者を介護するために、多くの人々が生活苦を強いられているのも事実。

この裁判の遺族代理人の畑井研吾弁護士は「介護の実態を無視した判決だ。認知症の人は閉じ込めるか、施設に入れるしかなくなる」とこれを批判し、名古屋高裁に控訴しています。

増え続ける認知症患者の失踪　―『日本は認知症大国になる恐れも』

認知症は加齢とともに発症率が高まる傾向にあります。
現在、世界でも有数の長寿国日本においては、こうした認知症患者が増える事により、介護の問題はもとより、認知症が原因の行方不明者への対処も早急な問題となっています。

もしもの時のために

認知症患者が行方不明になった時に備えて、GPSを常に持ち歩かせたり、衣服の一部や、首からお守りとして下げさせるなどすれば安心でしょう。

また、衣服などに名前や住所、自宅の電話番号などを書いておくのも効果的。保護されればすぐに連絡が行く事となります。