実話系所在調査『さらばストーカー！』

所在調査の依頼の中でも、依頼者が自身の身分を偽り、犯罪行為に探偵を加担させる行為が最近問題になっているのですが、こうした案件の多くは所在調査の依頼と偽って探偵社に近づいてきます。

そう、探偵は、時には依頼者も疑わなければならない場合もあるのです。

『さらばストーカー』

その依頼者がストーカーだではないかと疑いはじめたのは、相談員から調査の概要を説明された時でした。

依頼者は28歳の男性。探して欲しい人物とは、かつて離婚した妻だといいます。

元妻の年齢は24歳。結婚期間は3年程で、離婚した理由は話したがらなかったそうです。

調査のために依頼者から提供された情報は、かつての電話番号とメールアドレスと、以前の住所、アルバイトで働いていた居酒屋の所在地が提供されていました。

この時、私はこの手の依頼に対して大きな疑惑を抱いていたため、相談員に何度も依頼者が確かな人物であるかを確認するよう頼みましたが、相談員は免許書のコピーと勤務先を確認しているので心配はいらないと言いました。

桶川ストーカー殺人事件

その頃、なぜ私が所在調査の依頼者を、特に『別れた妻』を探す男性を疑い始めたのかといえば、その前年におきた『桶川ストーカー殺人事件』のせいでした。

桶川ストーカー殺人事件は、日本のストーカー殺人の始まりともされる事件であり、この事件以降、ストーカー規制法案が整備され、日本中に『ストーカー』という言葉を浸透させた大事件です。

この事件以降、各探偵社がこぞってストーカー調査を行いはじめたのですが、私はそれとは別に、ストーカーがいかにして被害者の個人情報を特定するのかに興味を覚えていました。

私も当然探偵ですから、他人に個人情報を特定する事も仕事の一つですが、それは当然プロだからこそ出来る訳であって、ストーカーがどれほど一個人の個人情報を特定できるかに興味があったのです。

しかし、桶川ストーカー殺人の情報を見て行くと、ストーカーの個人情報の特定には技術や知識こそ伴っていないものの、被害者の情報を手に入れるためなら、どんな事でもやる異常なほどの執念こそが、ストーカーが被害者の個人情報を特定できる最大で最悪の武器であることが解りました。

つまり、ストーカーは自分で探せない場合、ありとあらゆる時間と金をつぎこんでその人物を探しだそうとしますし、その手法に違法性のあるなしは関係ありません。

自らの身分を偽り、探偵社に依頼をして、その被害者を探しだそうとする事も十分考えられると思ったのです。

この時の私の不安は、後に起きた逗子ストーカー殺人事件で現実のものとなってしまったのですが、この時はまだ、まさか探偵がストーカー殺人にまで関わってしまう事があるとまでは予想できませんでした。

依頼者の嘘

今回の依頼もまた、結論からいえば依頼者の嘘にまみれた調査でした。

情報の勤務先に出向き、話を聞くと、数か月前にも別の男性が対象者の事を探しに来たという話を聞きました。
しかし、その男性は『自分は彼女の兄である』と名乗っていいます。

また、前住所地の周辺にも同様に聞き込みに行くと、彼女の部屋の隣に住む人物も、数か月前に男性が訪れて同じ人物を探していったと証言。この時、その男性は『彼女の恋人』だと名乗ったというのです。

普通に考えても、これは奇妙な状況です。
私は急いでこの事を本社に伝え、相談員と直接連絡を取り、依頼者の身もとを再度確認するよう依頼しました。

その結果、依頼者から渡された勤務先の情報はまったくのでたらめ。免許書も偽造品を使用していたかもしれません。

その後、相談員は依頼者にこの事を伝え、契約違反の旨を伝えるとそのまま音信不通に。
やはり、この人物も身分を偽り、探偵社を利用しようと考えた1人だったのです。

まとめ

ストーカーと探偵との争いは今後も続いて行くでしょうが、実際には、相手の素状を確かめず、安易に依頼を受けてしまう探偵社も多くいます。

そうした探偵社には警告を鳴らす共に、探偵業界全体がストーカーからの受件をいかに防ぐかを真剣に考えて行く事が必要です。